月周回衛星「かぐや」(SELENE)とは?

SELENE(かぐや)プレス公開

本項では「SELENE計画」や「かぐや」衛星について当方の所見等も軽く織り交ぜながら御説明致します。 尚本項はあくまで「取っ掛かり」程度にしかならない物なので、 「かぐや」並びに「SELENE計画」の詳細についてはJAXAのプロジェクトサイト「月周回衛星『かぐや(SELENE)』」(http://www.selene.jaxa.jp/) を是非御覧下さい!

概要

「かぐや」は旧宇宙開発事業団(NASDA)と旧宇宙科学研究所(ISAS)の共同ミッションとして開始された「SELENE計画」を担う月探査衛星です。
コード名の「SELENE」は、ミッションパッチにもあります通り SELenological and ENgeneering Explorer の頭文字をギリシャ神話の月(の女神)を表すセレーネー(ΣΕΛΗΝΗ) に当てはめた物です。 「かぐや」と云う名前は一般公募により付けられたこの衛星の「愛称」です。 元々我が国ではISASでも旧NASDAでも衛星の愛称は、衛星が無事軌道に乗った後に発表される慣習だったのですが、 最近の宇宙利用推進本部(旧NASDA系)の衛星の愛称は、 イベントとしての性質上打ち上げ前に発表される事が多くなりました(e.g. 「だいち」)。

「かぐや」及び2機の子衛星は、月を廻る傾斜角90°の、所謂「極軌道」(polar orbit)に投入され数々のミッションをこなす事になります。 「極軌道」は地球や月が自転する事によって、言わばスキャナの様にその表面を隈なく観測する事が出来る、 科学衛星や観測衛星等で良く使われる軌道です。 近年の我が国の衛星では観測衛星の「だいち」科学衛星の「すざく」「あかり」等がこの様な軌道を使用しています。 これらの衛星の軌道は極軌道の中でも更に特殊な「太陽同期軌道」(SSO)と言う物です。

Clementine 画像

Lunar Prospector 画像

Clementine(上)と Lunar Prospector(下)

本衛星は、機体外形寸法 2.1×2.1×4.8m、質量 3t、2機の子衛星、13種ものセンサー(含 高精細映像取得システム)から成る、 アポロ以降に米国が打ち上げた月探査衛星「Clementine」、「Lunar Prospector」等と比比較しても非常に大掛かりな衛星となって居ります。 本プロジェクトが「アポロ計画以来の本格的月探査計画」と云われる所以です。 この巨大さについては、少なからず否定的な意見が聞かれるのも又事実であります。 即ち「詰め込み過ぎ」によるリスクが大きいのではないか?と言う事です。

宇宙開発に於ける最大のリスクは、何と言ってもロケットによる打ち上げの失敗でしょう。 ハッキリ言って、如何なるロケットにも失敗は付き物であり、(先頃もロシアの「プロトン」ロケットによる我が国の民間衛星「JCSAT-11」の打ち上げが失敗したばかりです) これによる衛星の損失、また衛星その物の不具合の発生等を考慮すれば、複数の機体に分けて打ち上げるべきではないか?という訳です。 然し、その点については我が国の宇宙予算の絶望的な迄の少なさを考えれば致し方無し、と言った所でしょう。 実現可能な範囲でベストを尽くすしか道はありません。 言い訳にかまけて何もしなければ、結局何事も進歩も変化もする筈が無いのですから・・・。

ミッション

「かぐや」の目的は、「月の起源と進化の解明および月の利用可能性調査のためのデータを取得するとともに、 月周回軌道への投入、月周回中の姿勢軌道制御技術、熱制御技術等の開発を行う」とされています。 その内訳は以下の通りです。

●月面観測ミッション
  • 元素組成
  • 鉱物組成
  • 地形
  • 表層構造
  • 磁気異常
  • 重力分布
●技術開発ミッション
  • 月周回軌道への投入
  • 周回軌道上での三軸制御・軌道制御技術
  • 熱制御技術
  • 将来の月面軟着陸技術開発のための基礎データ取得

後に詳述しますが、「かぐや」以前に我が国が月に送り込んだ「ひてん・はごろも」はスピン安定型の機体で、 その主要目的は「2重月スウィング・バイ」技術の修得、確立であり、 孫(何故か「はごろも」はこの様に呼ばれています)衛星や「ひてん」を月軌道に投入したとは言え、 双方とも月軌道上で本格的に運用された訳ではありません。 「かぐや」は月の科学的探査の他に、月周回軌道上での三軸制御・軌道制御技術その他の、 未経験の新しい技術にチャレンジし、 将来の更なる本格的な月探査への礎を築く「工学実験機」としての側面も持ち合わせているのです。

「かぐや」搭載のHDカメラによって撮影された地球

「かぐや」搭載のHDカメラによって撮影された地球

この他に特筆すべきは、何と言っても「高精細映像取得システム(HDTV)」による地球および月のハイビジョン撮影」でしょう。 これこそは専門家やマニアでなくとも楽しめる「SELENE計画」の一つの「目玉」であると当方は考えて居ります。 この「ハイビジョン」の搭載についても一部に批判が無くもありません。 曰く「こんな物積まないで、もっと他に有意義な科学観測機器を乗せた方が良いのに」と言う訳です。 確かにその様な意見も理解で来ます。 ただ、少し考えてみて頂きたいのです。 果たして宇宙開発とは誰の為、何の為の物なのか、と。

先ず第一に最前線の現場で頑張っている科学者、技術者が尊重されるべきであるのは勿論ですが、 我が国の宇宙開発が、現代の科学者、技術者の、況してや利権や政争の道具とする為だけの物では終わらず、 未来の科学者、技術者、そして広く国民の為の物であって欲しいと願っています。

少なくともここに1人、月面からの「地球の出」ハイビジョン中継を楽しみにしている人間が居ますよ!

将来計画

SELENE-B 想像図

月面上の SELENE-B ランダとローバの想像図
(SELENE-B パンフレットより)

「かぐや」には「SELENE-B」と呼ばれる後継機の構想があります。 これは、月を周回軌道上から観測する「SELENE計画」から一歩進んで、 月面にローバ(Rover 探査車)を搭載したランダ(Lander 着陸機)を軟着陸させ、 詳細な観測を行なおうと云う計画です。 また、更なる将来計画として月面よりのサンプルリターンの構想もあります。

これ迄余り具体的な進展が見えて来なかった「SELENE-B」計画ですが、 先頃、月探査計画を検討している宇宙開発委員会のワーキンググループによって、 この計画が報告書案に盛り込まれたとの事で、実現へ向けて取り合えず一歩前進した模様です。

「かぐや」によって幕を開かれた我が国の本格的な月探査計画が、 これらの後継機によってより一層の発展を遂げる事が出来ると良いですね!

備考 −神の祝福?!−

「かぐや」は、マスメディア等に於いては殊更「21世紀の月探査レース」と言う枠組みで語られる機会が多いですが、 元々は2004年(1998年のISASNews No.206 には 2003年頃を目指すとありますが)に打ち上げられる予定だったのですから、端からその様な「競争」が意図されていたわけではありません。 第一、本来ならM-Vロケット2号機によって「SELENE」以前に 「LUNAR-A」(これについては別項でも取り上げる予定です)が打ち上げられて居た筈なので、 そもそも「競争」に等なる訳が無かったのです。

然し、現実には「SELENE」の打ち上げは幾つかの要因 −H-II 8号機(F7)による運輸多目的衛星MTSAT-1の打ち上げ失敗(代替機の打ち上げを優先)、 IGS(情報収集衛星)打ち上げの割り込み、 6号機によるその IGS 打ち上げに失敗した H-IIAロケットの、原因調査及び改良の為の打ち上げの停止、 子衛星の部品(コンデンサ)の配線ミスの発覚、etc.− により、最終的には 2007年9月迄持ち越される事になりました。

一見すると、「なんて不運な探査機なのか・・・」とも思える様な道程ですが、 もし「かぐや」が当初計画通り 2004年に打ち上げられていれば、 もしかすると H-IIA の打ち上げ失敗は「かぐや」打ち上げ時に当たって居たかも知れませんし、 また子衛星の不具合などは、後に打ち上げを控えている「超高速インターネット衛星WINDS」の試験中に見つかった同種の不具合がきっかけで調査、発見された物であり、 場合によっては改修される事も無くそのまま打ち上げられていたかも知れません・・・。 その様に考えてみると「かぐや」は非常に幸運な、もしかすると「神に愛されている」探査機なのかなぁ、等とも思えて来ます。

まるでそれを裏付けるかの様に、「かぐや」は今の所「怖いくらいに」順調にイベントをこなして居る様です。

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